教え鳥は愛を紡ぐ

13/13
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ
硝が消えたステージを呆然と見つめて、俺は一人赤い顔を掌で覆い隠していた。 別れを告げながら、もう会わないと言いながら、どうしてキスなんか……。 口付けを落とされた唇に触れると、もうすっかり落ち着いた筈の顔の火照りを感じた。 (いや、そんなことより……) 離れていった硝の顔が忘れられない。言葉も表情も、行動と全く合っていない。 求め合うのは、そんなにいけないことか? …なんて、凡そ教師の発言ではないな。嘆息して、瞳を閉じると、ぼんやりと彼女の顔が浮かんでくる。 またあの顔。泣きそうな、壊れてしまいそうな儚さを感じさせる切ない笑み。 ――愛、してる、わ 拙い愛の言葉が胸に突き刺さっている。怯えているくせにどうして触れたがるのか。 煙草の煙を吐き出しながら、俺は硝が消えたステージの上で弦を弾く。吐き出さなければ、今夜はどうにもなりそうもない。 「愛してる……か」 呟いた言葉は思いの外重くのしかかり、肺を満たす煙の量をただ増やすばかりだった。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!