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「……キス…………された……」
音にすることで、とたんに現実味を帯びてくる。
熱くなった頬を両手で隠すように包んで、その熱さにくらくらした。
「ファーストキス……だったのよ」
孝輔は大人びたフリをしているわたしが、こんな純情な乙女みたいな反応、驚くでしょうけれど。
「居るんでしょう?孝輔」
ガタ、とドアが音を立てる。
その反応が可愛くて、わたしよりずっと大人なのに可笑しくなった。
「何も言わなくていいわ」
静寂が心地いいなんて、いつ以来かしら。とても、久しぶりな気がする……。
「ありがとう」
頬の痛みを忘れてしまった。恋は万能薬ね。
この先なにがあったとしても、わたしは頑張れる。
「ありがとう……孝輔……」
言葉に出来ない想いを、彼には聞こえぬように、小さく呼んだ名前に込める。
だって、きっと、彼は気付いてしまうもの。
愛しさというのか、そんなものが込み上げてきて、頬を流れる雫を、何度も何度も拭った。
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