殺戮の王国

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メイドは、殺戮の国の王様の、最後の命令を聞き入れました。決して涙を見せませんでした。最後まで、笑顔のままで。 「これであなた様を自由にして差し上げられるのですね。ようやく、楽にして差し上げられるのですね。」 地上で毎日のように処刑を実行させられていた張本人である彼女は、死という概念について酷く麻痺しておりました。本当に狂った女だったからこそ、狂った王様と惹かれ合ったのです。 殺戮の王国の最後の犠牲者となったのは、国王本人でした。 彼女は王様が居なくなった後も、地上へと帰ることはありませんでした。一番大切な人を亡くし、生まれて初めて「死」を実感しました。今までは考えもしなかった痛みや悲しみ、死への恐怖、失った命の重さにようやく気付いた彼女は、激しく慟哭し続け、真っ暗な闇へと突き落とされました。 その涙はいつまでも涸れることなく流れ続け、地上の世界を水浸しにしました。殺戮の王国であった場所は海一面の世界へと変わり果て、人類はこの国から消え失せてしまいました。 おわり
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