第1章

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大学生のバイトの定番。塾の講師。応募した理由は時給がわりと良かったからだ。 そのバイトは授業の終わる21時過ぎに終わる。つまり、授業が終わってすぐ、僕たちのバイトも終わると言うことだ。 「お疲れー」 そう帰りの挨拶をしてきたのは、一緒に働いているゆりだった。 「あ、お疲れ」 バイトの中でも、どちらかと言うと内向的な方であった僕は彼女に話しかけられ驚いたのを思い出した。 「どうしたの?その顔」 「その顔?なんかついてる?」 本気で顔に何かついている気がして、コンビニ弁当を食べた時に、ご飯粒か何かをつけたまま授業をしたんじゃないかと不安になり、やや食い気味に聞いた。 「な、何もついてないよ」 彼女は笑って言った。 「その顔なんて言うから、なんかついてるかと思ったよ」 ほっと胸をなで下ろした。 「いや、ついてないけどさ、めちゃくちゃ驚いていたから、どうしたんだろって思って」 「驚いてた・・・?それは急に“お疲れー”なんて言うからだよ。今まで言われた記憶ないもん」 「そうだっけ」 今日は講師の少ない日だった。いつもなら4人はいる講師が、シフトの関係で僕と彼女しかいない。たったふたりだから彼女は話しかけたのだ。 「そうだよ。それなら驚いても仕方ないでしょ」 「そうだね。でも、それってさ大泉くんがバイト終わるとすぐ帰っちゃうせいでもあるよね」 「うーん、それは・・・」 すぐに帰る理由は簡単だ。バイトを掛け持ちしていたから、次のバイトがある時にはすぐに帰らないといけない。 「確かに。他にもバイトしてるからね」 「え、じゃ、今日もこれからバイトじゃないの?」 彼女はまるで自分のことのように心配してくれた。 「うーん、ホントはバイトの予定だったんだけどさ・・・」 言葉を濁した。
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