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カードを見つめたままのラシアを、不思議そうにミナが覗き込んでいた。
「あ、なんでもないの。ごめんね」
花が綻ぶようにミナに笑顔が戻る。
「この三角をね、二つ使ってミナ、先生に『出来ました』って言ったの」
小さな手が、二等辺三角形を持っている。
ドクンッ
胸が締め付けられるように、苦しくなった。
いけない、ミナに心配をかけてしまう。
「ミナ........」
「こうやって、お山みたいに並べたら、ハンバーガー屋さんみたいに........
ママ!?
どうしたの、ママ?痛いの?」
目が、その形から外せない。
頭の中の、意識のそこで『カチリ』
と、鍵の外れるような音を聞いた。
三角形二つは、
トクン
トクン
『ママ、ママ!』
ミナの声が泣き声に変わった。
顔をよく見せて........
あなた、ゴメンナサイ。
ミナを........
逃げて........。
ミナ、ミナ、
私の大切な
瞼の裏で、図形カードが点滅する
『M』
◆
その頃、高層ビルの会議室で一人の男が椅子を蹴りあげた。
「俺はもう行くぜ」
入口に控えていた男たちが、ザッと立ち上がる。
「イッカク、舐めてンじゃねーぞ」
その声に普段からイッカクのことを面白く思っていなかった奴らが乗っかる。
「お前が、アシュラ教団を追い詰めたのは確かに手柄だが。
まだ残ってるだろーが、ああ?キッチリ最後までやらんかい」
机が蹴り飛ばされた。
「俺の契約書にも書いてある。
俺が終わると言ったら契約終了、だ。」
黒い帽子のつばをスッと撫ぜる。
最奥の、黒革の椅子が軋む。
その僅かな音で、男たちに緊張が走った。
「........お前ら、今日は退け。
だがな、お前はどのみち教団に恨まれてんだ。
いつ殺られても不思議じゃねえ。
逆恨みのとばっちりはこっちもゴメンだ。
そろそろ、潮時かもな」
「兄貴!」
それきり、背を向けた。
「アシュラ教団の日本支部は潰せたが........本部はそう簡単にはいかないぞ」
イッカクは、口元だけで笑った。
「俺の好きなようにするさ」
イッカクは、受付嬢に不審な目を向けられながらロビーを突っ切った。警備員が最敬礼をする。
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