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「........また夏が来たか。
ラシアが、目覚めちまった。
ったく、サクタロウは何やってんだよ」
このまま、駆けつけようかと思ったがショーウインドウに映る姿を見て思いとどまった。
すっかり強面じゃないか。
「やべ、このままじゃミナに泣かれちまう。とりあえず髭剃って服買わねえと」
肩の古傷が疼く。
こういう時は、ラシアが助けを求めている時だ。
◆
『........だ。そこに運ばれた』
力ない声でサクタロウは病院名を告げた。
イッカクが着いた時にはもう、外来は終えていて正面入口は閉まっていた。
手術室の前の長椅子に項垂れている奴を見つけた。
足音で気づくだろうに、顔を上げもしない。
解っている。こいつは自分を責めているんだ。
髪を掴んで、上を向かせた。
「いってえぇぇ」
「シケた面してんじゃねーよ。ラシアは中だな。ミナは?」
「俺の両親がみてる........手離せ、ハゲる!」
手を離し、横にドカっと座ってやった。
「何があった」
「俺も判らない。ミナは泣きじゃくっていたし、隣の人が救急車を呼んでくれて。ミナに聞いたんだが、三角のカードを二つ並べたら、急に倒れたって........」
「三角........、こうだな」
俺は手帳に、二つ描いた。
「これは」
「ああ、俺たちのいた、あの教団で使われていた........隠しイコンのひとつだ」
『M』を示す、信者にだけわかる喩え。
どちらのものか判別出来ないため息。
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