【真夏のM字開脚】

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手術室のドアは、あっけなく開いた。 中には 誰も居なかった。 奥に、簡素なドアがある。 「そんな。ラシア........」 ヘタリこみそうになるサクタロウの腕を掴む。 「どうやら、ここの経営者が変わったようだなあ」 壁のカレンダーを顎でしゃくる。 ここの病院名が書かれたもの。 絵は、青が印象的な。 「シャガール........?」 「そうだ。未発表のものだな。そして、この構図は」 俺は親指と人差し指で三角形を作る。 「三角形、そして、三本燭台。これの意味するところは........」 「ラシアが、そうやって三角を作りながら言っていた 『父と子と精霊のーーー』」 「それだけならいいんだけどな。 神様を粘土細工のように、好き勝手に捻ったりくっつけたりする輩が、タチわるいんだ、よっと」 ひと蹴りで棚が派手な音をたてて壊れた。 カレンダーと反対の壁に、絵が現れる。 「これは........」 絶句したサクタロウに、俺は親指を下に向け逆三角形を作って見せた。 「拡げた両腕、閉じられた脚」 逆三角形が現れる。 「阿修羅像........」 この部屋は二つの三角形に結ばれていた。 その意味するところは。 この病院のロゴマーク、 六芒星。 「行くぞ」 俺はサクタロウの背中を叩いた。 「行くってどこへ」 「世界的な星があるだろ、アシュラは伝説では星を喰うんだ。」 「まさかお前」 ◆ タクシーを拾おうとしていると、サクタロウに着信があった。 「ミナが!」 「どうした」 「ミナが、居ないらしい」 俺は、最悪の予想になったことを恨んだ。 サクタロウにさっき言わなかったことがある。 阿修羅像の腕が一本足りなかった。 腕が五本の阿修羅。 その意味は、俺しか知らなくていい。
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