六月の鈍色

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  「今日は一時間目から数学だった。二次方程式の解法。公式を覚えるのが面倒くさい」 部活にも入っていない僕は帰り道、空っぽの余命をこうして潰すのが日課なった。 「二時間目は現代文。地球環境問題について論じられた説明文をやった。ぶっちゃけ知ったこっちゃないと思った」 彼女は何も応えない。反応しない。 ただ無機質な黒い瞳で上空にわだかまる曇天を見上げて、呼吸をしているのかも怪しいんじゃないかっていうくらいじっと動かない。 「それから、最後の六時間目は体育。今は選択でマット運動をやってるけど、僕にはもう前転と後転しかできないから何も面白くない。あとは、そうだ、お昼は今日も鞄の中の弁当を独りで食べた。美味しかった」 そうして僕は、今日の生存報告を終える。 辺りからは一切の音が消え去って、耳が痛くなるくらいしんと静まり返った。 蝉も鳴かないこの季節、風が吹かなければ木の葉の擦れ合う音も聞こえない。  
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