六月の鈍色

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  彼女が佇む樹木の幹に寄りかかって、公園を囲う錆びたフェンスを眺める。 その向こうには人の住んでいる気配が無い鈍色にひび割れた一戸建て住宅が、生気の欠片も無く横たわっている。 明らかに道路交通法違反な長さの鉄骨を積んだ軽トラックが、その家の前を通り過ぎる。 それっきり、空が腫れ上がった痣みたいなマゼンタ色になるまで、誰一人としてこの公園を横切る人はいなかった。 〇 公園の向かいにある鈍色にひび割れた一戸建ては、僕が小さい頃、もっと綺麗な家屋だった。 庭先には今風の植木やプランターが可愛らしく並んでいて、よく清楚な感じの女の人がホースで水を撒いていた。 窓は手垢の一つも見当たらないくらい綺麗に磨き抜かれていて、リビングにある黒いシックなソファーとか五十インチはあるかっていう大きな液晶テレビとか、洒落た感じの小物なんかが家の中から顔を覗かせていた。  
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