六月の鈍色

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  でもいつからか、猫の額ほどの庭には雑草が我が物顔で背を伸ばし、薄汚れた縁側の窓ガラスは段ボールのような厚紙で覆われてしまった。 僕がそれに気付いたのは最近、この公園に来るようになってからだった。 「やぁ」 今日も彼女は、この公園の真ん中に佇んでいた。 昨晩から降り続く雨のなか、傘もささずに鈍色の曇天を見上げている。 頭上を覆う樹木の枝葉が屋根になっているのか、彼女の黒髪はさして湿っているように見えなかった。 「風邪をひくといけないから、傘くらいさしたら」 こんな事だろうと思ってさっき、コンビニで買って来たビニール傘を差し出してみるけど、彼女は無機質な瞳で僕を一瞥するだけで、やっぱり何も応えない。 仕方がないから左手でもうひとつ傘を開いて、彼女の頭上に差し出してみる。 雨の幕に霞んだ向かいの一戸建ては、相変わらず人の気配が無い。  
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