六月の鈍色

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  〇 その日の夜は蒸し暑かった。 なかなか寝付けないでいると窓の外から響いてくる雨音が妙に神経を逆なでするみたいにうるさくなって、そうやっていらいらするとすぐ不整脈が襲ってくる。 胸の底に鉛でも入ったみたいな重たい身体を起こして、僕はひんやり冷たいフローリングに足の裏をつけた。 心臓が脈を打つたびに血管のなかを粘つく水銀に引っ掻き回されるような不快感が流動する。 最近はもう薬を飲んでも大して症状が緩和されない。 僕はよろよろと玄関まで這うような気持ちで歩いてから、傘立に飛び出たビニール傘を手に取った。 玄関を開ければ、かび臭く湿った夜の匂いと雨の音。 もしかしたらもうこの景色を見られるのは最後かも知れないとか、そんなつまらない思考が頭を過ぎるのはいつもの事だ。 ふと振り向いて玄関に掛かった時計を見て見ると、時刻は午前三時を指していた。  
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