第1章

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 腐った魚のような臭いがする。 新太は一人、 排水口を覗きながら、 手を突 っ込むのをためらっていた。 だが、 後ろでは容赦のない視線が責めるでもな く、 愛おしむでもなく、 無表情に背中に突き刺さってくる。 「もういいだろ う」と何度新太は言いたかっただろう。 だが、 もう一人の人間はそれを決し て許さないことはわかっていた。 それはちょうど、 目の前に餌があるのを決 して逃さない野生とでもいうべき、 本能だった。 野生動物のような長い髪を した女は弥生といった。 本名は立花皐月というのだが、 彼女は最初から新太 のことを見こんだわけではない。 まず求めたのは新太の方だった。 二人に肉 体関係はない。 従って、 ごく当たり前の恋愛関係は一切存在しない。 では、
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