第1章

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「さてと‥‥」 腕時計で夜の8:00を確認すると、下柳修(36)は紅白の垂れ幕の前に置かれたパイプ椅子がら立ち上がった。 夕方降った通り雨のせいか、少しだけ蒸し暑さを感じる。 K市の駅前にある陸奥屋百貨店の屋上。 複数の照明でライトアップされたそこでは、小さな観覧車がおそらく20年ぶりくらいに回っている。 ミニSLが、多くの子供たちを乗せて走っている。 「社長‥‥襟が‥‥」 そう言って丸に奥の屋号の入ったはっぴの乱れを直したのは、今日までこの百貨店で商品開発部に籍をおいていた宮内めぐみ(28)である。 めぐみも下柳と同じはっぴを着ている。 陸奥屋の閉店が決まったのは半年前だ。 かつては市民の憩いの場であった屋上遊園地を稼働させ、そしてこの場所で夏祭りを催すことで、下柳は陸奥屋の全てに、終止符を打とうとしている。 「ありがとう」 下柳はめぐみの顔を見て目尻を下げた。 寂しい笑顔だな‥‥ めぐみは耐えられずに、下柳の胸に視線を移した。
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