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しばらくの間、下柳とめぐみは、特設会場の椅子に並んで座った。
総務課の女子社員の作詞作曲の歌声にしみじみとして、経理課の女性3人のベリーダンスに頬を染める。
営業の若手社員のアマチュアプロレスでは、下柳もめぐみも思わず大声を出してしまった。
狭い特設会場の上で、いつもは大人しい印象の社員が、ジャーマンスープレックスなる荒技を披露したからである。
「おいおい、怪我だけはしないでくれよ!」
下柳は立ち上がり、声を掛けられた赤いトランクスは、それにガッツポーズで応える。
下柳を見上げるめぐみは錯覚した。
このまま皆で、1つにまとまった日々か明日も明後日も、1年後も続くような気がする。
めぐみもK市で生まれ育ったから、陸奥屋はずっとずっと、この場所にあり続けるものとばかり考えて来た。
下柳はまた、腕時計で時間を確認した。
夜の8:30である。
屋上に4台設置してあるスピーカーから、蛍の光が流れた。
そのメロディーは、夏の夜の夢と、陸奥屋の終わりの近いことを、屋上にいる人々全てに報せている。
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