第1章

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「宮内くん、少し僕につきあってはくれないだろうか?」 「えっ?」 自分を見おろす下柳が、なぜか悪戯っ子のような表情なのにめぐみは驚いた。 「8:40に城山から打ち上げ花火が上がるんだ」 「そんな予定ありましたっけ?」 「皆に今夜のこと、陸奥屋のことを覚えておいてほしくてね。ドッキリ企画です。そう何十発もは無理だけど、きっと綺麗な花が、夜空に咲くでしょう」 下柳が、あまりにまっすぐな視線のまま城山を見たから、めぐみはすぐに立ち上がり特設会場をあとにする下柳を追った。 屋上遊園地を外れた場所には、もう1段高い屋根がある。 屋上の屋上。 空調機械室の屋根へは鉄製の外部階段を登る。 下柳に手を引かれて、めぐみはその狭い階段を登った。 「あの‥社長‥」 静かな薄暗い場所で、めぐみは再び下柳の背中に言った。 「明日からは社長じゃなくなりますけどね」 「‥‥‥」 室外機室の屋根へ登った2人の頬が、白く照らされた。 陸奥屋から少し離れたところにある城山から、1本の細い光の筋が空へ昇ってゆく。
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