第3章

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 卒業式の片付けも一段落し、残りは後日という事で今日は解散となった。   「お待たせー!」  学園の玄関で腰掛けていると、妖子の声が背後から聞こえてくる。  嫌な予感がしたので立ち上がると、やはり妖子が飛び付こうとして屈んでいる所だった。 「クッ…、腕を上げたねアルト」 「毎日同じことされりゃあ、学習するって。そしてこれも毎回言ってるけど、行き成り飛びつくな」 「大丈夫。ちゃんとシャワー室で体を洗ってきたし、見ての通り着替えてるから、匂いが付く心配はないよ」  そういって妖子はその場でフィギュアスケート選手よろしく、一回転してみせる。  規則どおりの長さを保った紺色のスカートに茶色のブレザー。  髪など一度も染めたことのない、さらさらロングヘアの銀髪美少女が『どうだ参ったか』と言いたげな決め顔で仁王立ちしている。 「そういう問題じゃないなくて、俺の立場も考えろって言ってんだよ」  幼馴染の俺から見ても、今の妖子は可愛い。  何時間か前の彼女からは想像もつかない変身で、そのギャップが良いと学園でファンクラブが出来るほど人気があるのも頷ける。  そんな学園のアイドルが特定の男とベタベタしてれば、まぁ周りは面白くない訳で。  妖子を背負っている時の俺は『嫉妬』という名の針で構築された、ムシロ(・・・)の上を引きずり回されている気分なのだ。 「そんな事を気にしているのかい?。言わせたい奴には、言わせておけば良いじゃないか。ボクは全然気にしないよ?」 「俺が気にすんだって。‥あれ、そう言えば槍剣さんは?」 「今日の事が悔しかったらしくてね。『トレーニングして帰るから先に帰って良い』って言って。唐久多君は、強制的につき合わされている」 「あれだけハードな試合しておいて、あの人も元気だなぁ」 「ボクは今日一日で、すっごく疲れたよ…。式では在校生代表として挨拶しなきゃいけなかったし、来賓の方々への対応。試合では部活棟までダッシュしてからのサポート指揮。あぁ~、もう駄目だ~、歩いて帰る元気もでないな~」  助けを求める子犬の如く擦り寄ってくる妖子。  不覚にも、グッと来た。  だがしかし、これは妖子の常套手段だ。  騙されてはいけない。 「じゃぁ申請出して、サークル棟にでも泊まってけよ。俺は帰るから」 「ま、待ってくれアルト! ちゃんと歩く、歩くから!」
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