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正門を出ると、外はすっかり暗くなっていた。
暦的には『春』だが、日が落ちると肌寒く、まだまだ薄手のジャンパーが手放せない。
「今日の試合、惜しかったな」
「あぁ、ボクも今思い出すだけで胸がドキドキするよ。『P・S部』史上、いや学園始まって以来の名勝負だったに違いない」
「勝ってれば、なお文句なしだったけどな」
「それを言われると、痛いなぁ。『今年こそは行ける!』って思ってたんだけど、唐久多君が言った通り詰が甘かったよ…。でも先輩も奮闘してくれたよ。本来は剣士型プレイヤーなのに不慣れな格闘型で、あれだけ動けただけでも凄い」
「だな。‥ん? てか、そもそもだけどさ。なんで妖子が出なかったんだ? グェン・フィヴァッハはお前の機体だろ?」
妖子たちが所属するP・S部は、部員一人一人に専用のP・Sが提供される。
提供された機体をどうカスタムするかは個人の自由なので、機体には自然と使用者の嗜好にあった設定やクセのような物が定着していく。
わざわざ乗り慣れていない槍剣さんが乗るより、操作に慣れ、機体を知り尽くした妖子が戦っていた方が勝算もあった筈だ。
「生徒会の方が忙しくてね。メンテナンスならともかく、自分のコンディションを試合までに調整する暇が無かったんだ。なにより、先輩からの直談判もあったしね」
「なるほど、義理堅い槍剣さんらしい」
日ごろ『ウチはP・S・Bに人生をかけとるんヤ!』と豪語する槍剣さんにとって、卒業していった先輩たちとの日々は、かけがえのない物だったに違いない。
だからこそ、共に過ごした自分がどれだけ成長できたかを見せておきたかったのだろう。
「『義理堅い』という点では、アルトもそうじゃないか。サークルを存続させる為に、唐久多君に食って掛かるなんて大した物だよ」
「まぁ、特にやりたい事も無く、ボーッと過ごしてた俺を誘ってくれた人たちだからな。一年間、色々と世話にもなったし」
「『‥やりたい事がない』か…」
不意に、妖子が立ち止まった
「どした? マジに歩くの疲れたのか?」
妖子は無言で頭を振り『違う』と意思表示する。
しかし俯いたまま、なかなか歩き出さない。
「妖子?」
「‥アルトはさ…」
しばしの沈黙の後に、妖子が顔を上げる。
「‥アルトは、なんでP・S・Bを辞めちゃったの?」
「何だよ藪から棒に…。『辞めた』って、今でもたまにだけど、スパーリングとかは付き合ってやってんだろ?」
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