2013年12月。

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 そのリゾートホテル風の建物は、那覇市の中心部から少し南に離れた場所に建てられている。 建物の名はめんそうれハイツ。 地元の社会福祉法人一琉会が経営する、高級老人ホームの中の一つであった。  明らかにリゾートホテルを意識したデザインにて設計されているだけのことはあり、めんそうれハイツをひと目で老人ホームだと分かる人は少ないらしい。 大きな噴水と、白い石を敷き詰めて造られた通路は庭の大半を占める緑の芝生によく映えており、その立派な庭を入居者を乗せた車椅子を押して移動するスタッフの姿は、スタッフのユニフォームさえ無ければ親孝行旅行の微笑ましい一場面に見えなくもなかった。  つまりめんそうれハイツでは、陳腐なテレビドラマやいいとこどりの施設案内パンフレットからそのまま抜け出して来たような光景… 車椅子に座りながら幸せそうに微笑む高齢者を、やはり幸せそうな笑顔で介護するスタッフ …という、殆どの人が介護と聞いてすぐさまイメージ出来る光景を間近に見る事が出来るのだ。 当然その評判は悪くなく、歳を取ったらこんな暮らしをしてみたいものだと、同ハイツの入居者を羨む声も決して少なくない。 陸攻夫妻曰く三流ふらーおーじーこと及川悟が現在暮らしているのは、そんな高級老人ホームの中の一室なのであった。 尚、悟が個室を宛がわれているのは言うまでもない。
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