たまゆら洋盃店

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少し歩いただけで汗ばむ外の陽気と比べて、店の中はひんやりとしていた。 軋んだ音を立てて、扉が開くと、店の奥から「いらっしゃいませ」とお爺さんの声が聞こえた。 アンティーク調のテーブルの上で、何やら作業をしているお爺さんがこの店の主らしい。 臙脂色のサマーニットの帽子を被り、丸いフレームの銀縁メガネに、白いアゴヒゲ、ベストを羽織った小柄な店主は、童話に出てくる小人を連想させた。 店主に軽く会釈をした後で、僕は店内をぐるりと見渡した。 古い洋館を彷彿させるような店内。 白塗りの壁に焦茶色の柱、足元にはペルシャ絨毯。 部屋を囲むように設置された棚には、所狭しとグラスが並ぶ。 タンブラー、オールドファッション、ビールグラスにワイングラス。 江戸切子に琉球グラス。 色も形も様々だ。 そのグラスの緻密さから、僕は美術館にいるような気持ちになって、暫く間、じっと見入っていた。 「当店のグラスは、1つ1つ、職人が手間を掛けて作ったものを集めたんですよ」 いつの間にか店主が僕の隣に立っていた。 「そうなんですか」僕は店主を見下ろすような体勢で相槌を打った。
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