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「エッチングと言われる工芸手法なんですよ」
ふと手にしたグラスに、店主が説明を添える。
尻すぼみのタンブラーで、底からグラスの上部に掛けて桃色の濃淡に色付けされていた。
グラスの表面を細かく削ったような描写で、たくさんのコスモスが描かれている。
何となく手にしたものが、いかにも女性が選びそうなものだったので、店主に見られていたことが恥ずかしくなり、慌てて棚に戻した。
「こういったものも1つの出会いだと私は思います。あなたがそのグラスに何かを感じて手に取ったのなら、それは運命なのかもしれません」
そう言って店主は愛想良く微笑んだ。
「出会い」そして「運命」
店主の言葉が胸に響いて、次の瞬間には、僕はこのグラスを購入しようと決めていたから不思議だ。
「ありがとうございました」
深々とお辞儀をしながら、店先で僕を見送る店主にお辞儀を返して、僕は店を後にした。
途中でもう1度、洋盃店を振り返ったけれど、そこにはステンドグラスの扉が目印の煉瓦作りの店も、小人のような店主も綺麗さっぱりと消えていた。
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