たまゆら洋盃店

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僕が見たものは、全て幻だったのだろうか? 右手にしっかりと握られた紙袋、中に入ったグラスの重量もきちんと感じている。 目を擦って、再度確認しても、僕は「たまゆら洋盃店」を確認することが出来なかった。 仕方なく、「想ひ出通り」を駅に向かって歩く。 踏切の音が聞こえ、顔を上げると、上りの電車がこちらに向かってやって来る所だった。 発車ベルが鳴り、電車が駅を発車する。 走ってみたものの、その電車には間に合わなかった。 まぁいいか 急いでいる訳でもないし、次の電車がすぐに来るだろうと、道路の真ん中を陣取る駅のベンチに腰掛けた。 時折、車の往来があるものの、駅のベンチには僕1人きりだ。 照り付ける日差しに汗を拭う。 「グラスの中を覗いてご覧なさい。きっとあなたの想い出に辿り着くはずです」 店主が発した一言が気になっていた。 試してみようかと、店主のかぶっていたニット帽と同じ燕尾色の紙袋の中から、グラスの入った箱を取り出した。 丁寧に包装と解き、箱の蓋を開けて中身を確認する。 コスモスの描かれた桃色のグラス。 少し季節外れな気もするが、間違いなく僕が選んだものだった。 グラスを手に取り、空に向かって掲げる。 万華鏡を覗くように、僕はグラスの底を覗く。
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