醜き者たちの宴

2/7
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 のぼる。のぼる。黒い煙がゆらゆらと立ちのぼり、空へ消えていく。  浩二(こうじ)はぼんやりとそれを眺め、まるで魂が天に召されていくようだと感じた。  同時に悪寒も走る。もし、いま焼かれている遺体が浩二自身のものだったなら、こんなにも堂々と分身である煙を撒き散らし、自分の死をおおっぴらに晒しながら旅立っていくのは、気分が悪い。やるならもっと煙や臭いが抑えられた最新式の火葬炉で焼かれるか、民家から離れた火葬場で、そっと葬ってくれと思う。  そうはいっても、死んでからの事を自分で決められるはずもない。ならば今から遺言書でも書いておくべきかと考える。  いや、実際、その通りに葬儀が執り行われるかは確認しようがないのだから、その手の遺言なんかはたいして意味を成さないかもしれない。遺産相続あたりでもあれば、別だろうが。 「……何をしてるんだ俺は」  吐き出した言葉は、静寂の中に吸い込まれていった。  一人になりたくて火葬場から数十メートル離れた駐車場に来てみたはいいが、先程から余計な事ばかり考えついては、頭の中をぐるぐる巡っている。  いま一人になるのは止めておいたほうが良かったのかもしれない、と浩二は思い直していた。  だからといって、火葬場の待合室でお骨があがるのをただ待ち続けるのも、また耐え難いものがあった。あの場に居ると、重苦しい何かを一身に背負わされるような感覚に陥って、どうにも息が詰まる。  あそこに、浩二の居場所はない。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!