旅立ち

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俺は畑へと足を運んだ。 もっとも、人がいそうな場所だからだ。 畑は背の高いトウモロコシ畑だった。まるまる膨らんだ実が風にそよいでいる。 実がなって、もう収穫時期だろう。そして、食いどきだ。 誰もいないのを確かめ、ゆっくり手を伸ばす。 「これは、悪いことだ……ろう」 しぶしぶ伸ばした手を下げる。 「でも、腹が減ったし」 後ろ髪を引かれつつも、畑を後にする。 すると文字が書かれた看板を見つけた。 『ログの農場』 ログ? 誰だ? とりあえず、人はいるらしい。 確信を得て、人探しをする。 草の禿げた道をずんずん進む。 「川がある」 道沿いに川が流れている、なぜ気がつかなかったのだろう。 草むらと林で隠れてたからか。 服を脱ぎ、剣を鞄の上に乗せて、川に向かう。 「そうだ」 鞄の中からナイフを取り出す。 「コイツで魚を獲って食おう。待てよ、焚き火を焚いたら人が来るかも……」 木の枝を集め、川原にばら撒く。 「俺は魔法を使えたのだろうか?」 ふと思う、自分は生前何をしていたのだろうか? 火を起こしたいがどうしようか? 仕方ないので摩擦で火を起こすことにした。 綿のような綿毛の生えた草を引きちぎり、火種にする。 時間がかなりかかったが、火は起こせた。 舞い上がる煙に誰か気づいてはくれないか? 俺は気づいてくれることを願い、魚を掴みに川へと歩いた。 水の冷たさを足で感じる。 生きてる実感がある。あれは夢で、記憶喪失したままこんなところへ来た。 なんて、考えてると近くで魚が跳ねた。 すかさず、ナイフを投げる。 傷口から血を流した魚が水面にぷかりと浮かぶ。 「ナイフの構え、投げ方を体が覚えてるのか?」 魚を掴み、川原に上がると、木の枝を刺し火であぶる。 皮がぷくりとふくらみ、旨そうな香りが漂う。 近くの草むらがごそごそ動く。 灰色の獣がのそりと姿を見せた。 狼? 姿は狼のそれだ。しかし、 「尻尾五つ? なんだこいつ?」 狼もどきはゆっくりと距離を縮め、確実に間合いを計っている。 俺を喰う気だ。 剣……! 鞄に乗せた剣は狼の後ろだったことに気づく。
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