旅立ち

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『ヴヴヴヴヴヴヴ……』 威嚇しているのだろうか? 俺はナイフを二本投げつける。 前足に一つ、右目に一つ刺さる。 『ヴァァァァ!!』 退かない、どころか! 狼もどきの爪が肩を抉る。 なんだ、この力! 砂利に体を打ちつけ倒れる俺に、狼もどきは容赦なかった。 そのまま足に噛み付いてきやがったのだ。 「く、そっ! 離せバカ犬!! 死にたいのか!!」 顎の力がすごく強くまったく離そうとしない狼もどきに蹴りを入れる。 ナイフが眼の奥に深く突き刺さるが、なおも噛み付くのをやめない。 「嘘だろ? 脳にまで達してるだろ!?」 起き上がり、ナイフを持ち、顎を裂く。 力が抜けたか? 顔面をもう一度蹴りつけて、飛びのく。足の肉がえぐられ、出血がひどい。 そのまま剣を握り、鞘を抜く。 飛び掛ってくる狼もどき。 間に合え!! おびただしい血をかぶりながら、俺は震え上がった。 地獄じゃないか、ここは。 狼もどきはおれが掴んだ剣を丸呑みにした。 剣を突き出す暇もなかった。 もし、少し遅れたならと考えると冷や汗が止まらない。 肩で息をする俺に影がかかる。 人影? いや、それにしては大きすぎる。 「人形?」 顔すれすれに拳が過ぎ去る。 岩の拳? それは狼もどきの顔面を形を残さずすりつぶし、止めを刺したようだった。 おれは慌てて剣を抜き、岩の人形の胴に叩き込む。 甲高い金属音の後、痺れが腕を伝う。 「なにしてくれんの!」 少女の声が降り注ぐ。 顔を上げると、杖に乗っかった赤毛をおさげにした少女が俺を見下していた。 「なんだ、お前は!?」 「こっちの台詞! 助けてやったのに、恩知らずね」 「助けてもらってない!」 「喚かないで頭痛いわ。あなた、あの狼まだ生きてたのよ?」 生きてた? 剣を口に入れて、ナイフで顔がずたずたなのに?
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