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「いい? 噛んで含めるように説明するわ。あいつらはバグ。本来なら生まれてくるはずのないものなの。そいつらはあべこべなの、体の形状、中身、知能、能力。あたしはそんなやつからあなたを救ってあげたのよ?」
杖からすとんと俺の隣に飛び降りると、彼女は俺の焼いた魚をくわえて「これで許す」と言った。
無性に腹が立った。
「それよりもあんたレディの前ではしたないカッコしないでよね! 血まみれの変態さん」
自分をよく見てみる。なるほど、これじゃ血まみれの変態だ。
「食欲失せるわ」
そうぼやく彼女を尻目にそそくさと着替える。
こんなやつでも捜し求めた人間だ。
爽やかな川のせせらぎを聴きながら、近くの丸太に腰を降ろす。
「怪我なら治してあげるわ」
「口の悪さに見合わず案外優しいな」
「その口縫ってあげようか?」
彼女は俺の足を触れると、目を瞑った。
思わず息を止めてしまう。緊張する。ルーチェは小刻みに小さな唇を動かしはじめた。
『チカ・ガルケマ』
青白い光が傷口を覆う。
ほんのりと暖かい。傷が少しずつ癒える。
「すまない……肩もしてもらえないか?」
「魚もう一匹ね、やっぱり後二匹」
俺はナイフを鞄から数本出し、ため息をついた。
「この世界のこと、教えてくれ」
「いいけど、お金くださいね」
少女ははふはふと魚を齧りながら、そういった。
「着いたばかりなんだ。知らないことだらけで」
「じゃあ、シレーヌの代わりになって」
シレーヌ? 誰だ?
「この木偶の坊のことか?」
「もう教えない」
「彫刻のように美しい石像のことですか?」
彼女の隣に佇むそれは形が歪で正直、怖い。
そして、そんな強そうな奴の代わりになることなんて……。
「代わりとは、やはりさっきのような化物と戦うのですか?」
「そう! あたしの右腕として。ちなみにあれは『バグ』っていうから、みんな。とにもかくにも、下僕が増えて嬉しいわー」
彼女は笑顔で手を差し出した。
「お金はないよ……」
「握手よ!」
しぶしぶ彼女の小さな手を握ると、ぴりっと手に痛みが走った。
『主従の契約なり』
彼女はそう言うと不敵な笑みを浮かべた。
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