旅立ち

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『もう、お別れです』 もう少し聞きたいことがある。 『ハイ、どうぞ』 記憶が消えたまま、天に召されるのか? 『普通は記憶を引き継ぎます。そして、徐々に忘れていくのです』 なぜ、俺は記憶がない? 『記憶がないのは審議中だからです。あなたは天国へも地獄へも行けます。しかし、決めるのはあなた次第なのです』 あの光へ入れば、天国か地獄かが決まるのか? 『あれは入り口です。「幻界」への』 幻界? 『簡単に言えば、第二の人生です。そこで学ぶのです。生きるのです。記憶を取り戻すのです。いい人もいます、もしかしたら悪い人もいます。その中で何かを見つけてください』 何かって……? 『時間です、僕はあなたの生前、好きでした。天国でも構わないくらいだと思います。あなたならその何かを見出せます。おっと、次のお方の場所へ向かわないと……』 そうか。まだ、物足りないが。 『生まれた赤ん坊が「ママ」なんて発声したらどう思います。おかしいでしょ? まあ、そんな感じになると意味がないので。 最後に、とびきりいい人生を』 少年の声はそれっきり途絶えた。 俺はようやく大きな光の源に着いた。 光の玉。まばゆく光るそれに倒れこむ。 ゆっくりと、ゆっくりと吸い込まれ……。
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