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キリキリとその口腔が閉じていく、ゆっくりと、確実に。
踵に食らい付かれる女は、鉄の仮面の向こうからくぐもった唸り声を響かせていた。
仮面の後ろには舌を押さえ付けるヘラが備え付けられている、悲鳴すら上げる事も儘ならないのだろう。
そんな事を考えながら、俺はキリキリと螺を回す。手元のそれは拷問器具としては小さく、あまり広く用いられるモノではないが。
俺の相棒、ダイス。
何故相棒として好んで使うのかと問われれば、単純に趣味。
他の器具よりも確実に、骨を砕く。砕けた瞬間の手応えを螺が伝えてくれる、骨が軋む音すら間近で聞ける。
俺は、骨が砕ける音が好きなんだよ。そういや、俺の親父も膝砕き器を好んで使ってたっけなぁ。
キリキリと螺を回しながら俺はぼんやり考える。
既に何人もの人間の踵を共に砕いた俺の相棒の使い勝手は、目を閉じていたって分かる。
骨が砕ける寸前の一際大きな軋みが耳に届き、俺は螺を回す手を止めて立ち上がった。
「聞こえているな?もう一度聞く、お前は魔女か?魔女ならば頷け」
この質問に、意味など無い。思考させる事に意味がある、選択させる事に意味がある。
思考すれば気が狂うまでの時間を引き延ばし。否定を選択したなら、自ら拷問を選んだという事でそれに耐える気力がある事を意味する。
詰まりは、どう足掻いても逃れられない。
魔女である事を認めた瞬間、待っているのは処刑なのだから。
のろのろと首を左右に振った女に、俺は再び地面へと膝を付いた。仕方ないんだ、怨むのなら拷問人の家に生まれた境遇を怨もう。
そんな思いとは裏腹に、俺は自分の口角が無意識に上がっている事に気付いていた。
キリキリと、鳴く。
ミシミシと、軋む。
鉄の板は既に限界まで女の痩せ細った足にめり込み、板から溢れた皮膚が裂けてプシッと鮮やかな赤が舞う。
一際大きくなる呻きはまるで絶頂を迎える寸前の喘ぎにも似ていた。
螺を回す手が僅かに汗で滑る、じっとりと額に掻いた汗が髪をまとわりつかせるが不思議と不快じゃない。
そして――
パキッと世界一俺の愛する音。
俺の相棒が、女の踵骨を噛み砕いた。
だから俺はまだ螺を回し続ける、まだだ。
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