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家屋の軒下から一匹の鼠が現る、そいつは僕等種族を喰らう敵だ。栄養を与えられ、肥えた仲間があいつの歯の餌食となる。悔しいけれど僕はここから動く事が出来ない…仲間の死を只々、眺めるばかりだった。僕等は人間に好かれている、だから人は僕等を世話してくれるのだろう。けれど、僕等の天敵の鼠はどうやら嫌われているらしい。害獣駆除と言って、家屋の鼠を一匹残らず消し去った。その時から、僕等は命を落とすまで鼠を見ることはなかった。
肌に悪い、乾燥する季節”冬”が寒さを報せながらやって来た。僕等は為す術もなく、人間に暖かい場所を提供してもらうのが精一杯だった。ただ、その時仲間の数人が外に残されたままだった。寒く凍えるあの風の中、彼等は無事でいられるのだろうか。無事でいて欲しい。暖炉に暖められての生活は僕の生涯で忘れることのない、大切な思い出となるだろう。甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる人間、暖かい風を送ってくれる暖炉。いつか、お礼を言いたい。そう、僕は思っていた。
春、それは僕が生涯を閉じる季節のこと。夢のような日々を過ごした、名残惜しいという気持ちがない訳ではないけれど、僕は先輩方と同じように綺麗になりたいんだ。だから、僕は花を咲かせよう…太陽の下で強く、華々しく。
人間が僕を綺麗だと褒めてくれた、嬉しい。嬉しくてもっと綺麗になろうと頑張った。通りがかった女の子が、手で触り可愛いと褒めてくれた。時間は僕を蝕んでいく、僕は命を閉じる時が来たと悟る。身を軽くして、未来へ僕を飛ばす。命を繋いでいくんだ、人間が僕をまた褒めてくれるかもしれないから。
~fin~
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