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おやすみ、と彼の声。
髪を撫でられ、肩を抱かれ、顳にキス。
まるでそれは、眠る前の神聖な儀式のよう。
「今日もまだ休めないの?」
「うん、仕事が溜まりに溜まってるからね。終わったら、渚の隣でちゃんと眠るよ」
いつもそう言うけれど、会社の社長なんてやっている彼は、明け方近い時間にならないと戻って来ない。
「悠」
「ん?」
「何でも、ない」
寂しいなんて言えない。言えば彼を困らせる。
「渚」
「何?」
「寂しい思いをさせてごめん。明日の夜までには一段落させておくから、一緒に寝ような」
「無理はダメよ、悠」
「解ってるよ」
優しい人。
傍に居られるだけで幸せな気分になれるから。
「悠」
「な……ん」
ネクタイを掴んで引き寄せて、唇を重ねる。
「大好き」
「ありがとう。もう少し頑張れそうだ」
微笑む彼に私も微笑みを返して、大人しくベッドに潜り込んだ。
本当は、早くあの暖かい腕の中で眠りたいのだけれど……
私ももう少し我慢するわ。
終
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