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「よう、小十、暇か?」
縁側で、庭を眺めていた小十郎に声をかけたのは、副長助勤と呼ばれる幹部のひとり、原田左之助だった。
彼は、背の高い美丈夫で、彫の深い精悍な面立ち。
小十郎のような可愛らしさではなく、西洋の彫刻の様な美しさを持つ青年だった。
だが、見た目だけである。
性格は、短気、豪快、うるさくて、下品だ。
若い平の隊士達は皆、彼を恐れていた。
すぐ、怒鳴るし、手を出す。
そんな男なのだ。
けれど、少年は彼が好きだった。
憧れていた。
あの大柄な体で、立ち回る姿は迫力があった。
それに、彼の得意は槍。
長身から繰り出す風を切る音。
刃先の煌めき……
原田のひとり稽古を少年は、いつも憧れと恐れの含んだ眼差しで眺めていたのだ。
だから、こうして原田に声をかけてもらえると、嬉しくて仕方がない。
「はい!」
「馬鹿かよ、てめえは。
暇かと聞かれて、嬉しそうに『はい』はねえだろ」
だって、ほんとに暇なんだもん…
さすがにそう答える勇気はなかった。
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