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気になる生徒では、あった。
あまり人の輪にいることはなく、かといって孤立を好むほうでもなさそうな。
よく言えば、自立したバランスのいい空気を持っていたから。
それがまさか、思いつめた眼差しで、俺と付き合って下さいを言い出すとは、予想していなかったが。
「付き合うのは構わないが、卒業したら別れるぞ」
「え……?」
「学校ってのは、出てみりゃ楽園みたいなもんだ。その場だけの、なんか輝かしいもので満ちてる。だから、そんな目で私を見てるだけだ」
「先生、俺は……」
「今までにも何人かいたよ。全員、正しい道を歩いてる。私は教師だ。法に触れるようなことや、君の未来に傷をつけるようなことは一切しない。考え直せ、クラスの女子のほうが楽しませて……」
「俺が最初の、最後の男になります」
「……は?」
「俺、別れます! 約束しましたからね!」
なんだあれは……、という声もかき消す勢いで駆け出した彼の背中を、どうせ長続きしない幻覚みたいなもんだろと冷ややかに眺めていた。
別れる前提で、付き合う。
ましてや手に触れることもない同性に対して今の感情を保っていられるわけがない。
世界は新たな刺激に満ちている。
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