CASE 1

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今日も彼女は黒くて綺麗な長い髪を揺らしている。 今年30歳になるとは思えないが、確かにクラスメイトとは全く違う色気を放っていた。 「じゃあ今日はここまで。明日小テストやるから復習しておくように」 年相応には見えない可愛らしい顔には似合わず、声は低めだ。 最初に聞いたときは驚いたけれど、今では彼女の声が心地いい。 「松本君、昨日の課題を集めて持ってきてね」 「わかりました」 こんな些細な会話をするために、他の教科も担当する面倒くさい係を自ら買って出た。 昨年、彼女が英語の担当になってから絶対に係りに立候補しようと決めていた。 と言ってもそんな面倒くさい係に立候補する人なんていないのだけれど。 僕は、人気者でもないから気軽に話しかけることもないし、他の人みたいに先生彼氏いるのかなんて軽々しくからかったりもできない。 彼女は皆から好かれる人だから、僕が交わすのはほぼ毎日事務的なことばかり。 それが逆に僕を安心させた。 二人で秘密を共有しているような実感が湧いてくるからだ。
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