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……ん
……さん
懐かしい日々から俺を呼び戻そうとする声に目覚め始める。
ゆっくり明かりを取り込む俺の目に紫の顔が映し出されると、はっきりしない意識の中でも抱き寄せたい衝動だけは鮮やかだった。
「ちょっ、壱琉さんっ!?」
俺の腕の中でもがく紫を抱きしめながら、もう1度このまま眠りたくなる。
「壱琉さんっ、もうすぐ新しい担当さんが見える時間ですよっ 」
こんな時に仕事の話を持ち出した紫に少しばかり腹が立って腕の力を緩めると、俺から解放された紫は乱れた髪を整えながら床に座った。
「ちょっと目を離したら、こんなところで寝てるんですから。それに原稿、進んでるんですか?」
買い物から帰ってきた紫はソファで横になっている俺を呆れ顔で叱る。
だけど俺はそんなことよりも目の前にある湿った唇が欲しくてしかたなかった。
目覚めのキスぐらい罰当たらねぇだろ。
小さく頬を膨らます紫の頭に手を回して引き寄せて閉じられた唇を少しずつこじ開けていくと、俺自身も眠りから覚醒していった。
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