追憶〈新たな日々〉

44/47
516人が本棚に入れています
本棚に追加
/83ページ
指輪も無い、自分が言いたかったことを並べただけのプロポーズ。 恥ずかしさで紫の肩から顔を上げられない。 「何か言えよ……」 辛いほどの沈黙を紫のせいにしてみたりして、その場をしのごうと足掻いてみる。 それなのに、ちっとも何も言ってこない紫。 さっさとこの空気を流して欲しいのに。 「おい、いい加減……」 紫を引き剥がそうと肩に手をやった時、微かな声が聞こえた。 「紫?」 俺の服を強く握る紫をゆっくりと引き剥がして顔を覗き込んだ。 そこには唇を噛み、頬を伝わずに地面に落ちる大粒の涙を流す紫の顔があった。 「何で泣くんだよ?俺と結婚すんのがそんなに嫌なのか?」 よくよく考えれば俺が勝手に盛り上がっていただけの話。 万が一のことを考えていなかったことに不安が過る。 だけど、紫の口から出たのはそんな『もしも』の話なんかじゃなかった。 「私……幸せになってもいい……ですか?」
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!