第一話 新人

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「嘉穂さん、特別室って何なんですか?」 嘉穂さんに手を引かれて足早に三階迄階段を登って来たから、私の息は少し上がっていて、上擦った声が出て苦笑いをすると、嘉穂さんは手を離さないままステーションの隅っこまで私を連行した。 そして、眉間のシワを緩めることなく、とても低い声で説明を始める。 「いい、榊…特別室って言うのはね、うちらの認知症棟にある開かずの個室で、特別プランを希望した利用者が入る部屋。担当者が決まってて、そいつは『利用者が入所した初日の夜勤』だけ出勤してくる。特別室の利用者はそいつが見るから、私たちは『利用者が入所した初日の夕食の介助』だけすればいい。あとは全部そいつがやるから。』 「ちょ…っ嘉穂さん、説明早すぎですよぉ。メモとるから待って下さ…」 「だめ!特別室の事は一切メモとか取らない!」 嘉穂さんが急に声を荒げたから、私は思わず、ポケットから取り出したボールペンを床に落としてしまった。
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