1人が本棚に入れています
本棚に追加
「嘉穂さん、特別室って何なんですか?」
嘉穂さんに手を引かれて足早に三階迄階段を登って来たから、私の息は少し上がっていて、上擦った声が出て苦笑いをすると、嘉穂さんは手を離さないままステーションの隅っこまで私を連行した。
そして、眉間のシワを緩めることなく、とても低い声で説明を始める。
「いい、榊…特別室って言うのはね、うちらの認知症棟にある開かずの個室で、特別プランを希望した利用者が入る部屋。担当者が決まってて、そいつは『利用者が入所した初日の夜勤』だけ出勤してくる。特別室の利用者はそいつが見るから、私たちは『利用者が入所した初日の夕食の介助』だけすればいい。あとは全部そいつがやるから。』
「ちょ…っ嘉穂さん、説明早すぎですよぉ。メモとるから待って下さ…」
「だめ!特別室の事は一切メモとか取らない!」
嘉穂さんが急に声を荒げたから、私は思わず、ポケットから取り出したボールペンを床に落としてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!