飛び降り

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
私は、人の多い古い駅で電車を待っている。 この駅は実在する駅で、周りには山しかないが、戦前に工廠があったため、今も乗り継ぎのために多くの人が利用している。 朝、学校に行くため駅で準急電車を待っていると、10m程離れたところに見覚えのある顔を見つけた。 アルバイト先の先輩の黒田だった。 この黒田、後輩に仕事とミスを押し付けることで有名で、さらにアイドル社員の石井さんと「親同士の決めた」許嫁なことから、(やっかみもあって)私は大嫌いだった。 何か言ってやろうかと、黒田に近寄った。 「黒 言い終わらないうちに、黒田が人をかき分けて線路に飛び降りた。 ちょうどうまいタイミングで、この駅を通過してゆく特急電車が来た。 「ドシャ」というような、土嚢を地面にたたきつけたような音が耳に残った。 呆然とする自分の周りから、飛び降り自殺か、なんだ、こんな時間に……。 という声が聞こえてきた。 この時、自分は心の中で「やった!」と喜んでいた。石井さんはこれで幸せになれる!と。 この駅は無人駅で、車掌や運転士が出てくるまでかなり時間がかかった。黒田の死体まで5mもなかったが、人込みにまぎれたのに加えて、見る気がしなかったので視界に入ることはなかった。 運転士は(たぶん無線で連絡を取ってから)外へ出てきて、謝罪と乗り継ぎの案内をしていた。このまま私は本来乗るはずの電車の次の電車に乗って学校へ行った。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!