手紙

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時には年下に見える。 時にはぐっと年上にも見える不思議な雰囲気に、アタシはいつの間にか飲まれて、 私は彼に興味を抱いている。 何のためにあの場所で声をかけ、ここに連れて来たのか… 問いかけたい気持ちと知らずにいたい気持ちが胸の中に渦巻いていた。 「好きなだけ…ここに居て良いから… 眠る時に、隣で眠っててほしい。」 彼は長い沈黙を破って言った。 「は?」 聞こえていた…でも、訳が分からなくて、 いつもより甲高い声を上げる。 「あんた…あの場所でずっといんの?金が必要なら、 必要なだけ…あげる。寝る場所も…ここで良ければいくらでも使っていい。 だから…」 「なんで?」 利点も何もないのに、こんな良い話があるわけない。 「あんた…死んでるから…」 帰ってきた言葉と真っ直ぐな視線に負けた。 …死んでいる。 自分の感情も大事な気持ちもふたを閉めて、 そう…棺桶に入れて、埋葬した。ずっと昔に… だから今…ここに居る体は抜け殻。 「金なら…有るよ。嘘じゃない。」 目の前に置かれたのは、 テレビの中でしか見たことの無い札束。 ゴクリっ。と喉を鳴らす。 このお金があの時に有ったら、売りをしないでも生きていけたかな? 帰りたいあの場所はあのままだっただろうか。 落ちた貧困の穴は、アリジゴクに落ちたみたいに抜け出せなくて、 幸せだと思っていた場所は一瞬にして崩れ落ちた。
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