手紙

7/10
前へ
/12ページ
次へ
目を閉じている絵の中の私は笑っている。 現実と違って幸せそう。絵を直視出来なかった。 リョウタは寝食を忘れて絵を描き続ける。 「何で、絵ー…描くの?」 夢中になってるリョウタに声をかけるのは躊躇いが有ったけど…。 「好きだから…」 ニカッと笑ったリョウタの顔は、 悔しいほどに眩しくて…愛おしいと思う笑顔だった。 ***** その絵を描き上げたリョウタは、 絵を丁寧に包みどこかに運んだ。 部屋の中で一番幅を利かせていた物が無くなると、 部屋は一層ガランとした。 その日の晩もリョウタはアタシの腕の中で眠る。 「何で…アタシを拾ったの?」 言葉は悪かったけど、その言葉が一番しっくりきた。 「いつか…わかるよ。」 リョウタはそう言って、何も教えてくれなかった。 聞く事で捨てられるのが怖い私は聞くのを止めた。 静かな寝息は、眠れないアタシの睡眠導入剤で、 リョウタの隣だったら、 静かに深く…眠る事が出来た。 私は…この不思議な状況を幸せだと思った。 リョウタの事を何も知らなくても… リョウタが私の事を知らなくても… リョウタが…私を欲しいと思わなくても、 ただ…ただ、こうして隣にいさせてくれれば… それだけで…良かったんだ。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

102人が本棚に入れています
本棚に追加