手紙

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幸せは、赤ちゃんの時に握りしめている。 その手を開いた瞬間にフワッと飛んだ幸せをもう一度掴むために 人は生きていく。…そんな話を聞いたのはいつの事だろう。 長く続くものではない。儚いモノだとわかってはいても、 幸せだと思ってしまうと、そこから落ちる事に恐怖を覚える。 私は、リョウタの側で、そのぬくもりで 幸せを感じてしまっていた。 なのに、リョウタは私に与えた場所に、 びっくりするような大金だけ残して忽然と消えた。 リョウタがいなくなった毎日、 ただひたすらに、リョウタの帰りを待ち続けた。 でもリョウタは帰ってこなかった。 リョウタの匂いの残る部屋が、段々とリョウタの存在を忘れても、 私はリョウタの事を忘れなかった。 リョウタが私を拾った理由がわかる日まで、 あの時の絵みたいに…リョウタを抱きしめていた時と同じようにして眠った。 ***** 食料を買いに外に出ると、人の視線を感じる。 その辺に残るリョウタの服を着たり、敵当な服を着ているから、 きっとみすぼらしいと思われているんだろう。 それが違うとわかったのは、偶然入った電気屋さんのテレビの前。 壊れたコーヒーメーカーも買い替えたくて出かけた。 リョウタが帰ってきたら…きっとコーヒー飲みたがるから… そう思って入った電気屋のテレビには、 あの日プチプチに包まれて運び出されて行った日以来の リョウタの絵が何か賞を獲ったと言うコメンテーターの言葉が聞こえた。 ここ最近、色んなニュースにリョウタの受賞を報道され その度に映されていたんだと思う。
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