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壁掛けのブラケットキャンドルがかび臭い地下の底冷えした空気を削るように薄暗がりにゆらめく。
湿り気を帯びた仄暗い闇を灯す朦朧とした炎の下、男が一人、冷たい石畳に膝をつき、頭をもたげていた。
歳は二十半ば程だろうか。
病的に蒼白い肌と美しい光沢を放つ白銀の髪はうなだれ、下を向いている。海と空を割ったような深い藍の瞳が床に置かれた木枠の棺を虚ろな目付きで見下ろしていた。
しなやかな彼の美貌は他に類がない。
物悲しくも妖艶な雰囲気を併せ持つ彼の指先が棺の端にそっと触れると、まるで意思を持つかのように蓋がずれ動き、ゴトンと床に降りた。
棺におさまる物は、精巧なつくりの女性の人形。
彼の手が人形の背に触れた。
もう一方の手は、抱き起こされて力なく凭れる人形の指先を包み込む。
温もりがあった――肌で感じる温度が、懐かしい思い出や心潰される狂おしい記憶までをも鮮明に彼の脳裏に甦らせる。
伏せた睫毛の下、形のよい唇が震える。絞り出すように人形の名を呼ぶと、彼は動くことのないガラクタに唇を寄せた。
柔らかさも温もりもそのまま残されている。
ただそこにはあるはずの魂、心が欠如していた。
虚しさが心を支配していく。
ふと、悲しみに囚われる彼の後方に影が伸びていた。
「クラウス様」
足音が後方に現れるも、彼――クラウス=フォン=ヘルトリングは振り返りもせずに次の棺へと目を向けていた。
その視線は深い悲しみに揺らいでいる。
次なる棺の人形を目に留めたクラウスは、今度は人形の手のひらをそっと掴み上げ、自らの頬に擦り付ける。
「僕はもう永遠の命など欲しくはない。
温かなこのひとときが……息を引き取る瞬間まで続けば――それでいいのに」
物静かに寄せられた告白は、どこか命を非難じみたものにしていた。
地下の一室、47の棺は魂を亡くした女達を囲う牢獄のようだ。
それでも、彼女らに触れるクラウスの瞳は愛に溢れていた。
まるで、その瞬間だけ悲しみを忘れたかのように――――
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