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それでも京での動乱は避けられる――そんな風に感じたのは確かだ。
お殿様との短い問答で、今新選組が長州征伐に参戦することの危険性を、あたしは察してしまった。ここで新選組を戦に投じるということは、
幕府が崩壊してもなお闘い続ける旧幕府軍――この形がただ早まるだけなのかもしれない……と。
長州征伐戦が長期化するということは、むしろ維新の体制が整わないままに幕末を迎えるということに繋がりはしないか。
そんな仮定が幾つも浮かんでは消える。
――結局、変化を好まないって事なのか。
あたしの中の総司が呟いた。
――あたしは何かを変えたいわけやない。
――見守るという形の〈逃げ〉だね。
逃げ切った――その安心感が、絶望を軽く感じさせていたのだ。
「なあ、かっちゃんよぉ」土方は久しく使っていなかった呼び名で近藤に話しかけた。「俺たちは結局のところ、京で一番強い組っつう肩書からは逃れられんってことかな」
馬上の近藤はしばし空を見上げた。
「それで良いと思ってはおらぬのだろう。トシは」
「……俺はかっちゃんを」
「わしじゃねえだろ。トシがどうしたいのかだ」
答えに詰まった。
「わしは堂々と会津候に意見を述べるお前が眩しいと思ったよ。……まあ、許してもらえたから良かったがな。
だが、おかげで今の我らの立ち位置が明らかになった。我らはそれに従うまでだ。今はな」
「今は……か」
答えを探しあぐねている土方を残し、近藤の馬が歩みを速めた。大きな後ろ姿が小さくなる。
ようやく土方の馬も駆け出した。
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