第二章

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 あたしには、話が見えない。 『なあ、誰の事?』 「うるせえ、黙ってろ」 「まあ! トシさん!!」 「ちが、違うんだよ……」  土方は、慌てて取り繕った。 「わかってるよ、あねさんの言いたいこたぁ。  ……山南さんも死なせちまったしな」 「そうよぅ。沖田さんの文を見た時のうちの人の驚きようったら……」  ――そうか。そう言えば山南さんは、この年の冬に脱走、切腹をしたんだっけ。  あたしは、すっかり忘れていた山南の末路を思い出した。  土方と共にいるものの、土方とうまくシンクロ出来ないあたしは、総司の時の様にこの時代の事や土方の事を理解できているわけではなく、あたしはあたし、〈山西留香〉のままだった。  そして山南の死を知ったあたしの胸には、恐怖と哀しみが、じわりと広がっていったのだ。
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