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◇◇◇◇
俺が眠りにつくまで、あの女はずっと泣いていた。
山南の事を思い出していたようだ。
俺のところに落ちて来た時は、無礼でがさつな女だったのに、俺があいつの心を手にした途端、あいつには沖田だったころの記憶が蘇ったのか、少しして静かに泣き始めた。
俺は、俺の中にもう一人の人間がいる事に、不思議と違和感も感じず、眠気に任せ目をとじた。
違和感を感じねえのは、俺の中のどこかで山南を失ったことに対して、哀しみを抱いていたからかもしれない……
――自分ではよくわからねえ。
男は簡単には泣かねえもんなんだ。
あれはもう、過ぎたことだ。
いつまでも、そこに留まってはおれねえからな……
俺の代わりにあの女が、泣いてくれるんなら、それでいいさ……
そんな風に自分を納得させて、目を閉じた途端、俺は夢の中に落ちて行った。
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