第三章

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「昼は(募集で)日野に集まった奴らに会う。  それまでは、空いてるからよ、どうだ、少し手合せするか?」  土方が源之助を稽古に誘った。 「はい!!」  源之助は破顔し、廊下に飛び出した。 「父上! トシさんが手合せしてくれるってさ!」  庭で下男と話をしていた彦五郎に大声で声をかけ、そのまま走り去った。  この家の主、彦五郎は土方の傍に来て、縁側に腰を下ろした。 「トシ、すまねえなあ、おとくがよぅ……」 「いいさ、あねさんの言うこともわからんでもねえ」  おのぶは、土方の実の姉である。  彼女が嫁いだ佐藤家は、ここ日野本郷三千石を管理する名主(なぬし)だ。  土方の言うことには、〈おとくさん〉だが。  今はまだ、名をノブに改めていないようだ。(有名なのは、ノブの方だから……)  あたしには、嫡男源之助を京にやりたくない彼女の気持ちが、よくわかる。  ――跡取り息子を、あの荒れた京にやるなんて…… 「清川の話を聞いた時はよう、おまいさんじゃなく、俺が京に上がりたかったくれえだもんな  ハハハハハ」  彦五郎はそう言って、子供の様な笑顔を見せた。
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