第一章

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 いつもは、夢を見ても、目覚めれば忘れてしまう。  あの、長い夢は本当に夢だったのか……  だって、今でも、鮮明に思い出せるのだ。  あたしは、沖田総司として、彼の意識と共に生きた。  人を殺め、同志の死に涙し、女に恋をした。  彼は、あたしであり、あたしの息子の様でもあり……  目を閉じるといつでもそのことを思い出せるのに……  なのにあたしは、ここにいる。  目を開け、傍らで寝息を立てる夫を見た。  ――隆生の声が、土方を思い出させるんやん。  ぼんやりと眺め、再び目を閉じた。  鮮明に思い出すのは、あの町並み、乳白色の朝靄、夕暮れの赤い空、光る夏雲、土砂降りの雨。  ――そうそう、京の街角に吹く一陣の風……  そして、土方の腕の中で見た、紺碧の夜空………
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