第十九章

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「正直、土佐や薩摩と手を組んだ長州を思うとな、今度の戦、幕府に勝ち目を覚えぬ」 声を殺した。 土方は黙って聞いている。 「今まで徳川の味方であったはずの譜代大名藩からも裏切り者が後を絶たぬ」 『まあ、水戸なんつうのがいい例だな』 今更である。なぜ今更、こんな弱音を口にするのか。 『やっぱり山口へ新選組を派遣できなかったのが悔しいのかな』 『さあな』 白けた気分でツマミの壬生菜漬けをつまんだ。 「世の中全てが新しいもんに食らいついて、それで何かが好転するとでも思ってやがるからな」 土方は冷めた意見を口にした。 「それだよ。わしはな、権力争いの末、日和見にあちらこちらと転がる輩が許せぬ」 この時代、著名な誰しもがそういう行動を取っている。坂本龍馬然り、西郷隆盛然り。勝海舟にしたってそうだとすら思う。 彼らの目指す勝利の先は、倒幕。 新たな政治の仕組みを作り、中央政府を建て直すことなのだから。 「俺は崩壊させる気はねえぜ。今の日本を守る」 タン――箸を膳に叩きつけるように置いた。
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