第4章『蝶子の事も、自分の事も』

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 優が目を開けると、そこは保健室だった。   「優ちゃん、良かった。大丈夫?」  ミコトは横たわる優の顔を覗き見ていた。  優は瞬きを繰り返す。その度に、涙が頬を伝った。   「――俺……」  次の瞬間、ミコトも目に涙を浮かべた。   「俺って……優ちゃん、思い出したの!?」  優はゆっくりとベッドから起き上がり、頷いた。   「思い出した。蝶子の事も、自分の事も」  人間の脳は不思議なもので、記憶を失わせることで、心を保とうと勝手に機能した。  優はあの日、自分が誰であるのか、姉がどんな人物で、何故死んだのか、その全てを忘れてしまった。      だが、再び思い出したということは、向き合わずにはいられない。どんなに辛い事実でも。 「俺、卑怯だった。大事なことを忘れるなんて」 「優ちゃん」 「目の前の餌に釣られて。自分の実力で選ばれなかったら、上手くいくはずないのに」    優の両親は学校側の説明が気に食わず、裁判まで起こしそうになっている。  結局、優は試合に出るどころではなかった。  記憶を失ったことで、検査のために入院し、しばらく学校も休んだ。    事故の動揺から他のテニス部員の結果も、散々なものだった。    怪我を負わせた部員も、罪に耐え切れず、ずっと学校を休んでいる。  今となっては、隠している意味が無かった。   「ミコト、俺、やっぱり言う。真実を親に。もう嘘は嫌だ」 「うん。そうしよう。私も行く。一緒に謝りたい」 「ありがとう。ミコト」  ミコトは笑顔になり、優の左手首に紫色と透明の石が並んだブレスレッドをはめた。    透明の石は水晶だが、紫色は――。 「スギライト?」 「うん。きっと、優ちゃんに必要だと思ったから」 「そっか、ありがとう」      スギライトは霊的な力を強めてくれる石……。  
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