18人が本棚に入れています
本棚に追加
優が目を開けると、そこは保健室だった。
「優ちゃん、良かった。大丈夫?」
ミコトは横たわる優の顔を覗き見ていた。
優は瞬きを繰り返す。その度に、涙が頬を伝った。
「――俺……」
次の瞬間、ミコトも目に涙を浮かべた。
「俺って……優ちゃん、思い出したの!?」
優はゆっくりとベッドから起き上がり、頷いた。
「思い出した。蝶子の事も、自分の事も」
人間の脳は不思議なもので、記憶を失わせることで、心を保とうと勝手に機能した。
優はあの日、自分が誰であるのか、姉がどんな人物で、何故死んだのか、その全てを忘れてしまった。
だが、再び思い出したということは、向き合わずにはいられない。どんなに辛い事実でも。
「俺、卑怯だった。大事なことを忘れるなんて」
「優ちゃん」
「目の前の餌に釣られて。自分の実力で選ばれなかったら、上手くいくはずないのに」
優の両親は学校側の説明が気に食わず、裁判まで起こしそうになっている。
結局、優は試合に出るどころではなかった。
記憶を失ったことで、検査のために入院し、しばらく学校も休んだ。
事故の動揺から他のテニス部員の結果も、散々なものだった。
怪我を負わせた部員も、罪に耐え切れず、ずっと学校を休んでいる。
今となっては、隠している意味が無かった。
「ミコト、俺、やっぱり言う。真実を親に。もう嘘は嫌だ」
「うん。そうしよう。私も行く。一緒に謝りたい」
「ありがとう。ミコト」
ミコトは笑顔になり、優の左手首に紫色と透明の石が並んだブレスレッドをはめた。
透明の石は水晶だが、紫色は――。
「スギライト?」
「うん。きっと、優ちゃんに必要だと思ったから」
「そっか、ありがとう」
スギライトは霊的な力を強めてくれる石……。
最初のコメントを投稿しよう!