第4章『蝶子の事も、自分の事も』

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 夜、蝶子が出てくる夢を見た。      幼い頃、蝶子と一緒にままごとをしている夢だった。蝶子は優を愛しそうに優ちゃんと呼ぶ。それはそれは楽しい夢だった。    最後に、蝶子は高校生の姿に変わり、言った。 「蝶子は優雅を嫌いになれない」      そうかと優――大磯優雅(おおいそ ゆうが)は納得した。昼間の夢で聞いた声『蝶……は……ガ……になれない』は蝶子のこの言葉だったのだと。  喧嘩別れしたことが心残りで、たぶん、ずっと蝶子は伝えたかったのだと思った。  それにしても、この言い回し、蝶子らしい。     仲いい姉弟ではなかったが、優雅も同じ気持ちだった。 「俺も、蝶子のこと好きだ」もう優雅が蝶子を忘れることはない。「蝶子、ごめん。嘘ついて」  蝶子は笑い、優雅の両手を握った。          朝、目が覚めると、優雅はひと月ぶりに気持ちが晴れ晴れとしていた。    人は弱く何かにすがって生きている。だが、その弱さを克服した時はきっと――。    優雅は水晶さざれの上に置いたブレスレッドを腕につけ、リビングへと向かった。  カーテンの間から差し込む光は、さざれ石に反射して、キラキラと輝いていた。
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