第1章『蝶……は……ガ……になれない』

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『蝶……は……ガ……になれない』 「優ちゃん、授業終わったよ。起きて!」  田中ミコトは優の肩を揺さぶる。  眠気眼のまま優が黒板に目をやると、いつの間にかxが数十個増えており、寝ていた時間の長さにうんざりした。 『蝶はガになれない』  優は先ほどまで見ていた夢の中の声が耳から離れず、顔をしかめた。しかし、夢の内容はすっかり忘れてしまい、声の主は分からなかった。    そして、どうせ言うなら逆、『ガは蝶になれない』の方が合っている気がした。     ミコトの腕には丸い石が連なるブレスレッドが見えた。昨日まで無かった色彩に優は目がくらむ。   「何つけてんの?」 「うふふ、恋のおまじない」    ミコトは「このピンクの石はローズクオーツ。恋愛とか美容運、アップするんだよ」と自慢気に優の目の前へ差し出す。 「ふーん」  優は興味なさ気に答えた。  ところが、ミコトは真剣な表情になって続けた。 「……パワーストーン教えてくれたのは、優ちゃんだよ。やっぱり思い出せない?」   「え?」  困惑する優の目の前がぐにゃりと曲がった。まるでダリの絵のように、全てが溶け出すように。    そして強烈な意志を感じる『忘れなきゃ!』という声が耳元でこだまする。      忘れる、忘れる、一体何を忘れたらいいのか、優は何もわからないまま机に再び突っ伏した。     「優ちゃん……?」  ミコトは必死に優の体を揺すった。だが、返事はない。  クラスメイトがミコトの焦る様子を見て集まってきた。    優の回りは、あの日のように騒がしくなる。 「え? 大丈夫?」 「私、先生呼んでくる!」
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