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『蝶……は……ガ……になれない』
「優ちゃん、授業終わったよ。起きて!」
田中ミコトは優の肩を揺さぶる。
眠気眼のまま優が黒板に目をやると、いつの間にかxが数十個増えており、寝ていた時間の長さにうんざりした。
『蝶はガになれない』
優は先ほどまで見ていた夢の中の声が耳から離れず、顔をしかめた。しかし、夢の内容はすっかり忘れてしまい、声の主は分からなかった。
そして、どうせ言うなら逆、『ガは蝶になれない』の方が合っている気がした。
ミコトの腕には丸い石が連なるブレスレッドが見えた。昨日まで無かった色彩に優は目がくらむ。
「何つけてんの?」
「うふふ、恋のおまじない」
ミコトは「このピンクの石はローズクオーツ。恋愛とか美容運、アップするんだよ」と自慢気に優の目の前へ差し出す。
「ふーん」
優は興味なさ気に答えた。
ところが、ミコトは真剣な表情になって続けた。
「……パワーストーン教えてくれたのは、優ちゃんだよ。やっぱり思い出せない?」
「え?」
困惑する優の目の前がぐにゃりと曲がった。まるでダリの絵のように、全てが溶け出すように。
そして強烈な意志を感じる『忘れなきゃ!』という声が耳元でこだまする。
忘れる、忘れる、一体何を忘れたらいいのか、優は何もわからないまま机に再び突っ伏した。
「優ちゃん……?」
ミコトは必死に優の体を揺すった。だが、返事はない。
クラスメイトがミコトの焦る様子を見て集まってきた。
優の回りは、あの日のように騒がしくなる。
「え? 大丈夫?」
「私、先生呼んでくる!」
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