第2章『次のエースはやっぱり、優』

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「蝶子(ちょうこ)、俺思うんだけど、次のエースはやっぱり、優だろうな。すげえよ優は。センスある」  部長の中島康太(なかじまこうた)は優のプレーに感心していた。    優の姉、大磯蝶子(おおいそ ちょうこ)は耳を疑い、もう一度、中島の顔をしげしげと見つめた。      男子テニス部と女子テニス部は一緒に練習を行う。今も1年生の男女がペアとなり、戦っていた。 「フォーティーラブ」と審判役の部員が大声で叫び、優のチームは難なくゲームを制するようだった。  中島に言われずとも、優のプレーが素晴らしいことぐらい蝶子には分かっていた。  硬式テニスを始めてまだ2ヶ月しか経っていないにも関わらず、優は相手が嫌がりそうな場所へ打ち返すのが上手い。そして、しばらく打ち合った後に、隙をついてボールを手前に落とす。心理戦も一枚上手だ。    蝶子はキリリと自分の唇を噛んだ。   「蝶は蛾になれないのよ」 「なにそれ。どういう意味?」  休憩時間、蝶子は自分の気持ちを抑えきれず、優に話しかけた。   「私はアンタみたいに汚い手は使えない。泥臭いプレーはできない」    蝶子は、スポーツドリンクを飲みながら座っている優の隣に立ち、ピンと張られたネットを見つめながら言った。   「蝶子の方が、昔からなんでも上手かったじゃん」 「でも違う。テニスだけは」  蝶子は昔からなんでも良く出来た。勉強もスポーツも。  対する優は要領が悪く、スポーツも苦手だ。    だが、何故かテニスだけは学年で一番成長が早い。    一方で蝶子はテニスだけは苦手だ。  これまで出た試合は一度も勝てたことがない。    今度の6月8日から始まる関東大会ですら、出場の予定はない。サボっているのではない、土日も休まず練習している。でも、センスが無かったのだ。    それに加えて、蝶子が最も認めて欲しい人――康太――に、優が認められることが悔しかった。康太の興味が自分ではなく、優に向けられていることが。  
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